THE POLICE / SYNCHRONICITY II
               LYRICS & MUSIC by Sting

Synchronicity (シンクロニシティ)という言葉を広めた心理学者カール・グスタフ・ユングは「集合的無意識」という考え方を提唱した。

彼は夢の研究を進めるうちに、夢の中に登場する非合理的なシンボルやイメージこそが無意識の世界を解く鍵だ、と考えるようになったと言う。ユングは同じようなパターンが自然界にもあるのではないかと考え、研究を進めるうち、タロット・カードに興味を持つようになった。タロットには夢よりも具体的なイメージがあることに気づいたのだ。ユングはタロットに出てくる絵柄を歴史、宗教、哲学等の様々な分野から検証した。その多様性によって人間の無意識の中にあるものを喚起させ、導き出されたキーワードを解釈することで、タロットにはその人だけに当てはまるパターンがあると考えたのだ。

そしてユングはシンクロニシティ(共時性)という理論を提唱した。つまり無意識の領域にあるものと現実の世界に起こることには一種の共通性が存在し、人が偶然として片付ける出来事も、全て無意識の中にある要因によって必然的に起きているのだと言う。何も関連性がないと思える事象も、何らかの必然性の中で互いに引き付け合う関係が結ばれている、と言うのだ。スティングの書いたこの曲はその論理に基づいたものだ。

SYNCHRONICITY U

Another suburban morning / Grandmother screaming at the wall
We have to shout above the din of our Rice Crispies
We can't hear anything at all
Mother chants her litany of boredom and frustration
But we know all the suicides are fake
Daddy only stares into the distance / There's only so much more that he can take
Many miles away something crawls from the slime
At the bottom of a dark Scottish lake

とある郊外のありきたりな一日の始まり / 老婆が壁に向かって叫んでる
朝食を食べる音に消されないように、大声で怒鳴りあう
まるで何も聞こえやしない
母親は退屈さと不満を、念仏のように唱え続ける
だけど彼女の自殺未遂は全部嘘だって、誰だってわかっている
父親はただ遠くを見つめるだけ / もう彼にも我慢の限界が近づいている
そこから何マイルも離れた場所で / 粘液から何かが這いずりだしている
暗いスコットランドの湖の底で

Another industrial ugly morning / The factory belches filth into the sky
He walks unhindered through the picket lines today / He doesn't think to wonder why
The secretaries pout and preen like cheap tarts on a red light street
But all he ever thinks to do is watch
And every single meeting with his so called superior / Is a humiliating kick in the crotch
Many miles away something crawls to the surface
Of a dark Scottish Loch

不気味な朝の工場地帯 / 煙突が空に向かって汚物を垂れ流している
彼はデモの行列を、誰にも邪魔されずに通り抜ける / 何故だか考えもせず
秘書は赤いネオンの街頭を、まるで安っぽい売春婦のようにうろついている
だけど彼は、ただ見つめる事しか考えられない
いわゆる上司どもとの毎度のミーティング / それは股間に蹴りを入れられるくらい恥ずかしいもの
何マイルも離れた暗いスコットランドの入り江
その水面から何かが這い出す

Another working day has ended / Only the rush-hour hell to face
Packed like lemmings into shiny metal boxes / Contestants in a suicidal race
Daddy grips the wheel and stares alone into the distance
He knows that something somewhere has to break
He sees the family home now looming in his headlight
The pain upstairs that makes his eyeballs ache
Many miles away there's a shadow on a door
Of a cottage by the shore / Of a dark Scottish lake

また今日も仕事の一日が終わる / ラッシュアワーという地獄と向き合うために
きらきら光る金属の箱に、タビネズミのように押し入れられ / 自殺競争の参加者のように
父親はハンドルを握り、一人遠くに目をやる
彼にはわかっている、いつかどこかで何かが壊れてゆくのを
ヘッドライトの明かりの中、家族の姿がぼんやりと見えてくる
頭痛が彼の眼球に苦痛を与える
何マイルも離れたある湖畔、小屋のドアに影が映る
暗いスコットランドの湖のそばで

3番まであるヴァースの最後はいずれも湖で何かがうごめく・・という一節で閉められている。そしてそれが何を意味しているのかはリスナーの想像にゆだねられているのだろう。殆どの人はネッシーを思い浮かべるのではないか。それが街で暮らす人々の生活と何がどう、関係があるのか。それこそ究極のシンクロニシティと言えよう。実に摩訶不思議だが、そこがいかにもスティングらしいと思う。


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